kintoneからの移行を検討すると、最初に知りたくなるのは金額です。ところが検索して出てくる金額は、前提が書かれていないか、書いた会社の商材に合わせた範囲のものがほとんどです。
このページでは、金額そのものを当てるのではなく、金額が決まる仕組みを扱います。どの費目に分かれるのか、なぜ一度で確定しないのか、契約が重なる期間に何を払うのか、そして社内側で発生する費用をどう数えるのかです。公開されている数値と、編集部が判断材料として置いた見方は分けて書きます。
乗り換えなくていい条件は、費用のどこで見分けるのか?
年間の支払いが横ばいで、改修の請求が年に数回にとどまっているなら、いまの費用構造を変える理由はありません。
判断の入口は、金額の大小ではなく推移です。次の状態が続いているなら、移行の見積を取る段階にはまだ来ていません。
- 直近12か月の支払いが、ライセンス料と少額の改修費だけで説明できる
- 改修の請求が、業務の変更があった月にだけ出ている
- kintoneの外で、担当者が毎日転記や突き合わせをしている工程がない
- 触れる人が社内に複数いて、1人が不在でも運用が止まらない
この4点が保たれているなら、費用の問題ではなく運用の問題も起きていません。移行を検討すべきなのは、支払いの内訳が読めなくなったとき、つまり「毎月何かを直しているが、何を直したのか説明できない」状態になったときです。
移行にかかる費用は、どの費目に分かれるのか?
大きく6つです。現状調査、新しい仕組みの構築、データ移行、連携の作り直し、契約が重なる期間、そして移行後の保守です。
このうち金額として見えやすいのは構築だけで、残りは見積書で1行にまとめられがちです。1行にまとまっている費目は、範囲が書かれていないことが多く、後から追加になります。
| 費目 | 何に対して払うか | 見積書で確認すること |
|---|---|---|
| 現状調査・要件定義 | いまのアプリと業務の棚卸し、移す範囲の決定 | 成果物が何か。この段階だけで契約できるか |
| 新しい仕組みの構築 | 画面、入力チェック、権限、帳票の作成 | どの業務が対象で、どの業務が対象外か |
| データ移行 | 抽出、変換、投入、移行後の突き合わせ | 再実行の回数。添付ファイルと履歴を含むか |
| 連携の作り直し | プラグインやJavaScriptで埋めていた処理の置き換え | 現行のどの処理を引き継ぎ、どれを捨てるか |
| 契約が重なる期間 | 旧環境と新環境の両方のライセンス料 | 何か月分を見込んでいるか |
| 移行後の保守 | 障害対応、軽微な修正、問い合わせ対応 | 月額に含まれる作業と、別途見積になる作業の境目 |
比較の土台になるのは、旧環境の側の金額です。サイボウズの料金ページによると、年額契約の場合の1ユーザーあたりの料金は、ライトコースが12,000円、スタンダードコースが21,600円、ワイドコースが36,000円(いずれも税抜)で、最小ユーザー数はライトとスタンダードが10ユーザーです。スタンダードコースを10ユーザーで契約しているなら、ライセンス料は年間216,000円(税抜)になります。これは編集部による単純な掛け算で、実際の請求額はオプションや契約時期で変わります。
同じページには、ディスク増設が10GBあたり月額1,000円、セキュアアクセスが1ユーザーあたり月額250円、ゲストユーザーがライトコース700円・スタンダードコース1,440円(いずれも税抜)と示されています。標準のディスク容量は5GB×ユーザー数です。旧環境を残したまま移行する場合、この額が移行期間中も続きます。
「移行費用の相場」が見つからないのは、なぜか?
今回確認した公的資料では、移行の請求額ではなく、規模や工期、生産性の指標が示されていました。
国内でよく参照されるベンチマークは、IPAのソフトウェア開発分析データ集2022です。同ページによると、これまでに収集した5,546プロジェクトの定量データをもとに、工数、工期、規模、生産性、信頼性といった基本的項目を直近6年間のデータ1,479件から算出しており、前回の2020年版と比べて信頼性も生産性も低下する傾向が見られたと説明されています。あわせて、事業終了に伴い今後の発行予定はないことも告知されています。
ここで押さえておきたいのは、今回参照したIPAの資料では「1件あたりいくら」という形で示されていない、という点です。同じ規模でも、対象業種、既存資産の状態、要件の決まり具合で結果が変わるため、金額だけでは案件同士を比べられません。
金額の妥当性を確かめるには、自社の前提をそろえたうえで、複数社の見積を比べるのが現実的です。移す範囲とデータ量を先に固定すると、各社が見積もる対象のずれを減らせます。
見積もりが一度で確定しないのは、なぜか?
移行対象の範囲が、調査を経て初めて決まるためです。契約も、この段階の違いに合わせて分ける形が示されています。
IPAと経済産業省の情報システム・モデル取引・契約書(第二版)は、情報システム開発における取引構造を透明にするためのひな型として公開されています。同ページでは、第二版における見直しのポイントとして「システム開発における複数契約の関係」と「再構築対応」が挙げられています。既存システムからの作り直しと、工程ごとに契約を分ける進め方が、論点として扱われているということです。
実務ではこう現れます。要件定義の前に総額を提示された見積は、ベンダー側が範囲を仮置きして計算しています。仮置きが外れれば、追加の見積が出ます。逆に、調査だけを先に契約すれば総額は後になりますが、そのぶん前提が実物に基づきます。
どちらが良いかは、社内で決めたい順番によります。予算枠を先に固めたいなら仮置きの総額から入り、後で範囲を削る余地を契約に書きます。範囲を正しく決めたいなら調査を分けて契約し、その成果物をそのまま複数社への依頼書に使います。
kintoneと新しい環境を二重で払う期間は、どう決まるのか?
契約形態で決まります。年額契約か月額契約か、そして更新日がいつかで、重なる月数が変わります。
サイボウズのライセンスに関するご案内(クラウド版)によると、年額サービスは発注日の翌月1日から1年間がサービス期間で、サービス期間の途中では契約ユーザー数の追加のみが可能、契約ユーザー数の削減は契約更新時のみ可能と記載されています。同じページには、年額サービスではサービス期間の途中で解約はできないとも書かれています。
月額サービスは扱いが異なります。同ページによると、最低利用期間は1か月で、契約ユーザー数の追加は任意のタイミングで可能、ユーザー数を減らす手続きは新規発注月と追加した月を除いて任意のタイミングで行え、変更発注日の翌月1日から変更後のユーザー数が適用されると記載されています。
ここから導けるのは、切り替え日ではなく更新日を起点に計画する、ということです。年額契約で更新日の3か月後に新環境へ移す計画を立てると、旧環境の残り9か月分は払い続ける前提になります。移行の順番を、更新日の直前に切り替えが終わるよう組み替えるだけで、重なる月数が変わります。
段階的に移す場合は、どの段階でユーザー数を減らせるかも合わせて確認してください。進め方そのものはkintoneを捨てずに移行できるか?API連携から始める段階刷新で扱っています。
社内で発生する費用は、どう数えるのか?
作業に使った時間に、時間単価を掛けます。見積書に載らないぶん、抜けたまま比較されやすい費目です。
移行の期間中、社内には次の作業が発生します。いずれもベンダーの見積書には出てきません。
- 現行アプリの棚卸しと、どの項目を残すかの判断
- 移行前のデータ整理(重複、表記ゆれ、使われていない項目の除外)
- 移行後の突き合わせ確認と、差分が出たときの原因追跡
- 現場向けの説明と、運用ルールの作り直し
時間単価をどう置くかは会社によりますが、外部の前提を借りることもできます。サイボウズの料金ページに置かれているROIシミュレーションによると、コスト削減額は時給1,900円で計算すると明記されています。これは同社が自社サービスの効果を試算するために置いた前提であり、移行作業の単価としてそのまま使えるものではありません。自社の給与水準から出した単価を使い、外部の数値は桁を確かめる目安として扱ってください。
数え方はこうなります。対象作業の1日あたりの時間に、移行期間の営業日数と時間単価を掛けます。担当者3人が1日2時間を3か月(60営業日)使うなら、時間の合計は360時間です。この時間は、移行がなければ通常業務に充てられていたものです。
見積書は、どこを比べればよいのか?
金額の大小ではなく、前提の書き方を比べます。前提が違う見積は、そもそも同じものを指していません。
複数社から見積を取ると、金額に開きが出ることがあります。その開きが値付けの違いなのか、読み込んだ範囲の違いなのかは、金額欄だけを見比べても判別できません。次の観点を、同じ書式で並べてください。
| 比べる観点 | 前提が書かれている見積 | 前提が抜けている見積 |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 移すアプリ名と、移さないアプリ名が列挙されている | 「現行業務一式」とだけ書かれている |
| データ移行 | 件数、対象項目、突き合わせと再実行の回数が書かれている | 「データ移行一式」で1行 |
| 添付ファイル | 容量と件数、移行方法が書かれている | 記載がない |
| 検収 | 何をもって完了とするかの条件が書かれている | 「納品後2週間」とだけ書かれている |
| 並行稼働 | 期間と、その間の双方の運用ルールが書かれている | 記載がない |
| 保守 | 月額に含まれる作業と、別途見積の作業が分けて書かれている | 「保守費用」で1行 |
見積書に「データ移行一式」とだけ書かれていたら、その場で件数と対象項目を聞いてください。前提が書けないのは、まだ調べていないためです。調べていない見積を3社分並べても、比較にはなりません。
なお、誰に頼むかで費用の形も変わります。契約の型ごとの違いはエンジニア採用・SES・受託開発の違いは?外部開発チームを含む4つを比較で整理しています。
費用面での判断の目安は?
移行費用を単年で見ず、3年の総額で比べます。旧環境を続けた場合の総額と、同じ期間で並べてください。
移行費用は初年度に偏り、ライセンス料と社内作業の費用は毎年続きます。単年では初期費用の影響が大きく出るため、3年総額も併記します。
| 見るもの | 記録する数値 | 判断のしかた |
|---|---|---|
| 旧環境の3年総額 | ライセンス料、改修費、保守費、社内作業の時間 | 直近12か月の実績を3倍する。改修が増加傾向なら増加率も反映する |
| 移行後の3年総額 | 初期費用、新環境の利用料、保守費、社内作業の時間 | 初期費用は初年度、残りは3年分として並べる |
| 契約が重なる期間 | 重複する月数 × 両環境の月額 | 更新日を起点に月数を数える |
| 移さない業務 | そのまま残す業務のライセンス料 | 残す人数で計算し、旧環境側に足す |
3年総額に加えて、回収期間も出します。移行の初期費用を「旧環境の年間運用費から、移行後の年間運用費を引いた額」で割ると、費用を回収するまでの年数が出ます。年間運用費の差額が0円以下なら、費用面だけでは回収できません。差額がプラスなら、算出した年数を自社の投資回収基準と照らしてください。担当者が1人しかいない状態や、手作業が止まったときの影響は、回収期間とは別の欄で評価します。
範囲の絞り方は、困っている業務によって変わります。在庫と原価だけを分ける場合の考え方は在庫・原価管理をkintoneで続けられるか?向く条件と限界に、そもそも移行を検討する段階かどうかの判断はkintoneの限界はどこか?レコード数・連携・改修費で判断するにまとめています。
総額を出す進め方は?
5段階で進めます。実績の集計、範囲の決定、データの棚卸し、同一前提での依頼、そして3年での比較です。
- 直近12か月の支払いを集計する。 ライセンス料、改修費、保守費を月ごとに並べます。請求書が複数社に分かれている場合は、社ごとの内訳も残してください
- 移す範囲を決める。 アプリ単位で、移す・残す・やめるの3つに分けます。この段階で「やめる」に入れたアプリのぶん、見積は下がります
- データを棚卸しする。 移す対象のアプリごとに、件数、添付ファイルの容量、他アプリとの参照関係を書き出します。ここが空欄のまま見積を依頼すると、前提が仮置きになります
- 同じ資料で複数社に依頼する。 1から3の結果を1つの資料にまとめ、同一の文面で渡します。ベンダーごとに説明を変えると、差が前提の違いなのか価格の違いなのか判別できません
- 3年の総額で比べる。 旧環境を続けた場合と、移行した場合を同じ期間で並べます。契約が重なる期間と、社内で発生する時間も、両方に入れてください
この5段階のうち、止まりやすいのは2番目です。移す範囲を決めるには、どの業務が困っているのかを先に言語化する必要があり、そこが曖昧なまま見積だけを集めてしまうケースが多くあります。
自社の費用をどう分解すればよいか迷う場合は、お問い合わせからご相談ください。移行を前提にせず、いまの支払いの内訳を読むところから確認します。

