AI研修を検討すると、集合研修、eラーニング、マンツーマン、開発委託という選択肢が並びます。各社の比較記事は価格と講座数で並べますが、そこだけを見て決めると、あとから助成金が使えないと分かることがあります。
2026年8月3日、厚生労働省は人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースを改正し、助成対象にならない訓練を具体化しました。汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練は対象外、生成AIで商品提案書の構成案作成や文章修正を学ぶ営業担当者向けの訓練は対象、という線引きです。
つまり、手段の名前ではなく「誰の、どの業務を扱うか」で決まる制度になりました。この記事では4つの手段の違いを整理したうえで、助成金の線引きがどこにあるかを一次情報から確認します。
AI研修の4つの手段は、何が違うのか?
4つの手段は、受講後に何が残るかと、実施側・受講側のどちらが責任を持つかで分かれます。
| 集合研修 | eラーニング | マンツーマン | 開発委託 | |
|---|---|---|---|---|
| 学ぶ単位 | 部署・階層 | 個人 | 個人と担当業務 | — |
| 残るもの | 共通の言葉 | 個人の操作経験 | 業務の手順と設計 | 動くシステム |
| 進む速さを決めるもの | 全体の平均 | 本人の意欲 | 受講者の理解度 | 要件の確定度 |
| 自社固有の例外 | 扱いにくい | 扱えない | 扱える | 仕様に落とす |
| 制度上の実施方法 | 通学制・同時双方向型 | eラーニング | 同時双方向型(対面は通学制) | 訓練ではない |
| 賃金助成 | 対象 | 対象外 | 対象 | 訓練ではない |
| 経費助成の限度額 | 30〜50万円 | 15万円 | 30〜50万円 | — |
助成の欄は、中小企業が事業展開等リスキリング支援コースを使う場合の扱いです。マンツーマンやオンライン集合研修は、サービス名ではなく、実際に質疑応答を同時かつ双方向で行う実施形態かどうかで判定されます。詳細は後述します。
ここで読み取れるのは、安い手段と助成が効く手段は一致しないということです。受講料だけを横に並べても、社内が負担する総額は比べられません。
令和7年度の能力開発基本調査によると、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所は80.1%にのぼります。一方でOFF-JTを受講した労働者は37.3%です。前者は事業所、後者は労働者を母数とする別の指標で、研修を実施した企業の成果や手応えを示す数字ではありません。この2つだけで研修手段の良し悪しを判断することはできません。
助成金の対象になる研修と、ならない研修はどこで分かれるのか?
助成対象の基本条件は、制度が定める目的に合い、10時間以上のOFF-JTで職務に直接必要な知識・技能を扱うことです。
制度が定める目的は、新たな分野への事業展開、社内のDX・GX、人事・人材育成計画に基づき今後就く職務のいずれかです。3つめは認定経営革新等支援機関の確認も必要です。10時間以上で職務に直接関係するだけでは、対象になるとは限りません。
事業展開等リスキリング支援コースは、中小企業なら経費の75%、訓練期間中の賃金を1人1時間あたり1,000円助成する制度です。
2026年8月3日の改正資料で、厚生労働省は3つの問いを示しました。
- 特定の職業・職務に必要となる知識・技能を習得するためのものか
- マナー、リテラシー、概念理解にとどまっていないか
- 訓練内容に沿って対象労働者を選定しているか
同じ資料に挙げられた具体例が分かりやすいので、そのまま整理します。
| 訓練の内容 | 判定 |
|---|---|
| 生成AIを活用して商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練 | 対象 |
| 生成AIを利用するために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練 | 対象外 |
| DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練 | 対象外 |
| 自社のエネルギー使用量データの収集方法とCO2排出量の計算手順を学ぶ訓練を、算定業務の担当者が受講 | 対象 |
| 同じ訓練を人事・営業に従事する者が受講 | 対象外 |
支給要領には、これ以外にも対象外の類型が並んでいます。AI研修に関係が深いのは次の4つです。
- 職業または職務に間接的に必要となる知識・技能
- 職業人として共通して必要となるもの
- 通常の事業活動として遂行されるものを目的とするもの
- 職業・職務に関する知識・技能の習得を目的としていないもの
詳細版パンフレットには「単に既存のアプリやシステムを購入してその操作方法を習得する場合や、コンサルタントによる指導は、対象になりません」との記載もあります。ツールの使い方を教えるだけの講座は、この記述に近い位置にあります。
自社の業務を題材にすること自体は認められています。支給要領は、業務上の情報を訓練の題材として取り上げる場合でも、業務改善指導や事業活動における成果物の創出につながらないものは対象外に当たらない、としています。ただしこの扱いは、教育訓練機関へ委託して行う事業外訓練の場合に限られます。厚生労働省の例では、自社の財務諸表を用いて財務分析の手法を学ぶ訓練は対象、その分析結果に基づいて経営改善計画を策定する場合は対象外です。題材にするのはよいが、成果物を納品する形になると線を越えるという整理になります。
オンライン研修は、どれもeラーニング扱いになるのか?
なりません。制度はオンラインかどうかでは分けていません。同時双方向かどうかで分けています。
支給要領の定義では、情報通信技術を活用した遠隔講習のうち、受講中に講師へ質疑応答が行えるなど同時かつ双方向的に実施されるものを「同時双方向型の通信訓練」と呼びます。学習管理システムなどで進捗管理を行う遠隔講習は「eラーニング」です。この2つは扱いが大きく違います。
| 通学制・同時双方向型 | eラーニング・通信制 | 定額制サービス | |
|---|---|---|---|
| 時間数の数え方 | 実訓練時間数10時間以上 | 標準学習時間10時間以上、または標準学習期間1か月以上 | 修了した訓練の標準学習時間の合計10時間以上 |
| 受講要件 | 実訓練時間数の8割以上を受講 | 訓練期間中に修了 | 訓練期間中に修了 |
| 事業内訓練 | 実施できる | 実施できない | 実施できない |
| 賃金助成 | 対象 | 対象外 | 対象外 |
| 経費助成の限度額 | 30〜50万円 | 15万円 | 1人1月2万円 |
通学制と同時双方向型の経費助成限度額は、訓練時間数によって変わります。10時間以上100時間未満で30万円、100時間以上200時間未満で40万円、200時間以上で50万円です(いずれも中小企業、受講者1人あたり)。
見落とされやすい点が3つあります。
ひとつは、eラーニングでも訓練中の賃金支払いは必要だということです。支給対象となる訓練は業務上義務付けられ、労働時間に該当します。賃金助成は出ませんが、賃金は支払います。
もうひとつは受講要件です。通学制と同時双方向型は実訓練時間数の8割以上の受講で足りますが、eラーニングと通信制は訓練期間中に修了することが要件です。修了しなければ、その受講者は対象になりません。
3つめは回数です。2026年8月3日以降に提出された職業訓練実施計画届に基づくeラーニングは、同一の労働者に対して一の年度で1回までとなりました。コース全体では3回までです。
なお、eラーニングと通学制を組み合わせて実施する場合の限度額の扱いは、事案ごとの判断になります。組み合わせを前提に見積もる場合は、契約前に管轄の労働局へ確認してください。
誰が受けるかで、対象かどうかが変わるのはなぜか?
対象かどうかは、研修内容だけでなく、受講者の担当業務にその知識・技能が直接必要かで変わります。
先ほどの表にあったCO2排出量の例が分かりやすいところです。同じ訓練でも、算定業務を担当する者が受ければ対象、人事や営業に従事する者が受ければ対象外になります。訓練の中身は変わっていません。変わったのは受講者と業務の距離です。
ここから、研修の設計順序が決まります。受講者を先に決め、その人の業務から題材を選ぶという順です。参加人数を先に決めて、あとから受講者を集める設計では、訓練内容と受講者の職務が噛み合わなくなります。
自社はどれを選べばよいか?
対象業務、受講者、システム操作の有無という3つの質問で、研修・業務整理・開発委託に絞れます。
質問1。対象にする業務を1つ挙げられますか。
挙げられないなら、まず業務の棚卸しから始めます。「全社的にAIを使えるようにしたい」という状態は、助成金の観点でも、研修の成果を測る観点でも、そのままでは進みません。
質問2。受講者は決まっていますか。
決まっていないなら、対象労働者の要件を満たせません。誰の、どの作業を変えるのかが決まってから研修を設計します。
質問3。その仕事は、完了までにシステム操作を伴いますか。
伴わないなら研修で足ります。文書の要約、比較表の作成、メールの下書きのように、人が判断して人が出す仕事です。伴うなら研修だけでは終わりません。
研修で足りない範囲は、どこから始まるのか?
AIがメールを読み社内システムへ書き込むなら、権限管理やデータ連携が必要になり、研修ではなく開発の範囲です。
失敗したときの戻し先も設計の対象になります。
任せる仕事を段階に分けて考える方法は、生成AIとAIエージェント、どこが違う?で整理しています。最初に任せる業務の選び方はAIエージェント導入はどこから始める?を参照してください。
研修と開発は順番の問題であって、どちらかを選ぶ話ではありません。社員ごとの使い方に差がある段階で開発に進むと、作ったものが使われません。逆に、権限とデータ連携が必要な仕事を研修で解こうとすると、受講者が手を動かせる範囲を超えます。
決める前に、社内で確認しておくことは?
助成金を使うなら、受講者と対象業務を決め、計画届の提出期限や研修会社の要件まで契約前に確認します。
- 職業能力開発推進者を選任している
- 事業内職業能力開発計画を策定し、労働者へ周知している
- 訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に計画届を提出できる日程である
- 訓練経費を全額支払える(立て替えたうえで助成を受ける仕組みです)
- 訓練中の賃金を支払える
- 関係書類を支給決定後5年間保存できる
支給申請は、訓練終了日の翌日から2か月以内です。
研修会社側についても、確認する項目があります。
- 定款や登記簿の事業目的に「教育訓練事業」が記載された日本国内の法人である
- 支給申請時に必要な支給申請承諾書に承諾できる
- 講師が要件を満たす(実務経験10年以上、職業訓練指導員免許、1級技能検定合格などのいずれか)
- 文章や図表で訓練内容を表現した教材がある
そして、断ったほうがよい提案があります。厚生労働省は「訓練経費は無料になりません」という注意喚起を掲出し、危険な勧誘の例を挙げています。
- 広告協力の対価として金銭を受け取れば費用負担がなくなる
- 後からキャッシュバックがある
- AI研修とAIツールの導入をセットにすれば、ツールの導入費用も研修費用として申請できる
いずれも、訓練経費を全額負担したことにならず、助成の対象外になります。3つめはAI研修を名指しした記載です。また、助成金の申請手続き業務は社会保険労務士の独占業務であり、研修会社が代行することはできません。
不正受給と判断された場合、会社名と代表者名の公表、不正受給額の全額返還に加えて2割相当額と延滞金の支払い、5年間の助成金不支給という扱いになります。悪質な場合は刑事告訴の対象です。
事業展開等リスキリング支援コースは令和8年度末までの時限措置です。要件は年度の途中で変わることがあり、支給の可否は労働局が判断します。契約前に、厚生労働省の最新のパンフレットと管轄の労働局で確認してください。
株式会社ヘイグッドは、AIエージェント開発と、現場の業務を題材にしたマンツーマンのAI研修を提供しています。この記事で挙げた4つの手段のうち、マンツーマンの一形態にあたります。
いま止まっている仕事を伺えば、研修で足りるのか、業務の整理から始めるのか、開発まで進むのかを分けて整理できます。AI活用研修のサービス内容もあわせてご覧ください。